お客様の声と薬事法の関係性とリスク対応:企業担当者が押さえるべき10の視点

お客様の声は、消費者にとっての信頼性や製品の有用性を訴求する強力な手段です。

特に健康食品や医薬部外品、美容関連商品を取り扱う企業にとって、お客様の声を活用したマーケティングは訴求力の高い戦略といえるでしょう。

しかしながら、この「お客様の声」が薬事法(現:薬機法)において「広告」と判断された場合、その表現内容に厳格な規制が課されることになります。

本記事では、企業のマーケティング担当者が知っておくべき「お客様の声」と薬事法の関係について、実務に即した具体的な観点から解説していきます。

お客様の声と薬事法の基本的な関係性

お客様の声は本来、利用者の感想や評価であり、企業の意図的な宣伝とは異なる位置づけにあります。

しかし、企業がそれらを自社の販促物に掲載したり、ウェブ上で意図的に紹介したりする場合、薬事法においては「広告」と見なされる可能性が生じます。

特に医薬品や医薬部外品、化粧品、健康食品などを取り扱う企業にとっては、「効果がある」と受け取られる表現が違法となるケースも多く注意が必要です。

したがって、企業がユーザーの声を活用する際は、薬事法の基本的な考え方と「広告」に該当するか否かの判断基準を理解しておくことが不可欠です。

お客様の声が薬事法上「広告」に該当する条件

薬事法では、単なる感想であっても「事業者の意図に基づく表示」であれば広告と判断される可能性があります。

たとえば、「このサプリを飲んだら3日で痩せました」という内容を企業が自社サイトに掲載する場合、その内容が効能効果を暗示する表現であれば、広告と見なされるのです。

つまり、企業がその掲載に関与し、商品購入を促す意図が読み取れる場合、感想や体験談であっても法的な規制の対象となります。

これはSNSやレビューサイトへの引用でも例外ではなく、公式チャネルから発信された時点で広告性が強まります。

媒体と発信者の関係性

薬事法では「誰が発信したか」「どこで発信されたか」が広告か否かの判断要素となります。

企業が自社サイトやECモールの店舗ページなど、自ら管理するメディアで紹介している場合は、発信の意図が明確であるため「広告」とされる確率が高まります。

一方で、ユーザーがSNSやブログに投稿しただけであれば、通常は広告とは見なされません。

しかし、企業がそれを引用し、あえて目立つ形で紹介すると、その意図が評価され広告と判断されるリスクが生じます。

コーポレートサイトとLPの取り扱いの違い

コーポレートサイトでは事業紹介が中心であっても、商品ページでの掲載内容は広告と見なされる可能性が高くなります。

一方で、ランディングページ(LP)は明確な販促目的で作成されるため、その内容はすべて広告と捉えられる前提で設計すべきです。

そのため、ユーザーの声を掲載する際は、掲載場所やページの文脈に応じて表現内容を慎重に検討する必要があります。

意図的な掲載と編集の有無

お客様の声をそのまま掲載するだけでなく、企業が意図的に文章を修正・補完した場合、その意図が広告的と評価される可能性があります。

たとえば「効果を感じた」→「1週間で効果を実感!」のように表現を強調したり、ポジティブな内容だけを選定して編集したりする行為が問題となり得ます。

編集や取捨選択の行為自体が広告としての意図を示すことになり、薬事法の規制対象となるリスクが高まるため注意が必要です。

企業は、お客様の声を掲載する際はそのままの内容を忠実に、過剰な演出なく紹介することが基本姿勢となります。

薬事法における編集の定義と問題点

薬事法における「編集」とは、原文を改変し内容を強調・修正する行為全般を指します。

特に「結果の強調」や「期間の短縮」「効果の断定表現」などは、消費者の誤認を誘発する恐れがあり、規制の対象となる可能性が高いです。

たとえば「ニキビがなくなった」→「2日でニキビが消えた」のような変更は、たとえ元の発言が存在しても問題となるリスクがあります。

編集はその意図と文脈が重視されるため、社内での慎重なチェックが求められます。

意図的な抜粋と再構成が生む誤認リスク

企業が複数のレビューやコメントから特定の表現だけを抜粋し、あたかも全体の傾向であるかのように編集した場合、それは消費者に誤解を与える行為とみなされることがあります。

たとえば「肌に合わなかった」という感想を除外し、「肌がつるつるになった」という感想だけを組み合わせて掲載することは、事実を歪めた印象操作に該当する可能性があります。

このような編集は「実態を正しく伝えていない」として、薬事法違反の一因になり得ます。

企業は、全体のバランスを取る形での掲載、あるいは掲載基準を明確に示すことがリスク回避につながります。

薬事法に違反しないお客様の声の掲載ルール

お客様の声を安全に活用するには、薬事法に違反しない明確なルールを企業内に持つ必要があります。

特に「効能・効果」を暗示するような表現、医薬品的な誤解を招く言い回しを避けることが基本です。

企業が運用する広告や販売ページでは、法律の専門知識を持つスタッフや顧問と協力してガイドラインを整備すべきです。

こうしたルール整備と事前チェック体制の構築が、炎上や行政指導などのリスクを避ける重要な鍵となります。

効能効果を表現しないためのチェックポイント

薬事法に基づく広告規制では、「効能・効果の明示または暗示」が厳しく禁止されています。

たとえば「治った」「改善された」「効果があった」といった表現は、事実であっても広告で使うことはできません。

代わりに「飲みやすかった」「続けやすいと感じた」などの使用感にとどめることが重要です。

チェックポイントとしては、「改善・解消・効果・治癒」といったキーワードが含まれていないかを確認することが基本となります。

薬事法に対応した校閲フローの整備方法

企業内でのお客様の声の運用において、校閲フローを確立しておくことは極めて重要です。

とくに自社の広報・マーケティング部門だけで判断せず、法務や品質保証部門との連携によるチェック体制が必要です。

また、チェックリストの整備やマニュアル化によって、誰が見ても判断基準が一貫するようにしておくことで、リスクの低減につながります。

社内のチェック体制の精度が、薬事法違反を未然に防ぐための鍵となります。

Wチェック・レビューの導入方法

お客様の声を使用する前には、最低2名以上によるWチェック体制を構築するのが有効です。

1次チェックでは文面の法的リスクや誤解表現を確認し、2次チェックでは表現トーンやコンテキストを確認する役割を分けます。

チェック者には事前に教育を行い、チェック基準を明文化したチェックリストを共有することで、属人性を排除した運用が可能になります。

Wチェック体制を採用することで、法令違反や表現リスクを大幅に減少させることができます。

外部専門家のチェックを取り入れるべきケース

社内リソースでは判断が難しい事例や、法令の解釈に不安がある場合は、薬事法に詳しい弁護士や薬剤師などの外部専門家に監修を依頼すべきです。

とくに新商品発売時や大規模キャンペーンに際しては、チェック体制を強化する必要があります。

専門家によるチェックは一見コストがかかるように見えて、違反による行政処分や風評被害を考えれば、むしろ保険的コストとして十分に元が取れるものです。

専門家の活用は、企業のコンプライアンス意識を社外に示す効果もあるため、有効な手段といえます。

お客様の声を活用する際の薬事法リスクとその対策

お客様の声を使った広告は、薬事法に基づく違反リスクが常に伴います。

このリスクは「表現内容の意図しない誤認」「法令の認識不足」「運用フローの欠如」などに起因するケースが多く、特に中小企業においてはその対策が後手になりがちです。

実際に処分を受けた企業の多くは、法令知識の不備や担当者任せの運用体制に問題がありました。

このようなリスクに備えるためには、法令の理解とともに社内体制の整備・教育が不可欠です。

薬事法違反の実例と行政処分の内容

過去には、健康食品の口コミに「糖尿病が治った」「肌が白くなった」などの記述を掲載していた企業が、消費者庁から行政指導や措置命令を受けた例があります。

これらの表現は、たとえ実際のユーザーの声であっても、明確に「効能効果を示す表現」と見なされ、広告規制に違反すると判断されました。

また、薬機法に基づく違反には刑事罰や罰金が科されるケースもあるため、コンプライアンス違反のリスクは非常に重くなります。

違反事例を知ることは、自社のリスク回避に役立つ有益な学びです。

薬事法違反を防ぐための社内教育と運用体制

薬事法の正しい理解を社内で共有するためには、定期的な勉強会や研修が欠かせません。

特に商品開発・マーケティング・広報などの部門横断的に共通理解を持つことが、組織としてのリスク回避につながります。

薬機法や広告ガイドラインの改正情報も随時更新されるため、継続的な教育体制が不可欠です。

教育は一時的な施策で終わらせず、習慣化・制度化することが大切です。

社内マニュアルと定期勉強会の有効性

業務に即した社内マニュアルを整備し、定期的に勉強会を開催することで、薬事法の知識を実務に落とし込むことができます。

マニュアルは、判断基準・用語定義・NG事例などを網羅的に掲載し、誰でも参照可能な状態にします。

勉強会では過去のトラブル事例や、業界動向を取り上げることで、現場感覚に即した理解を促します。

これにより、担当者が日常業務で迷った際の判断材料を提供することができます。

実務に落とし込むためのeラーニング活用

社内教育の継続性を高める方法として、eラーニングは非常に有効です。

時間や場所に制約されず、繰り返し視聴できるため、習熟度を高めることが可能です。

テスト機能を組み合わせることで理解度の把握もでき、社内での学習状況を可視化できます。

また、eラーニング導入は教育の属人化を避け、企業全体の法令順守体制の強化にも寄与します。

まとめ:お客様の声活用には薬事法への深い理解が必須

お客様の声は企業にとって非常に有効なマーケティング資源ですが、薬事法においてはその活用に慎重さが求められます。

「広告」として見なされた場合、効能効果の表現が規制対象となり、違反すれば重大な法的リスクが伴います。

そのため、企業担当者は薬事法の基礎知識を持ち、社内に明確なルールと運用体制を構築する必要があります。

また、表現のチェックや教育体制、外部専門家との連携などを通じて、安心してお客様の声を活用できる環境づくりが求められます。

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