お客様の声を広告として活用する企業が年々増加しています。
リアルな使用感や評価が見えるため、見込み顧客に対して高い説得力を持つ施策として注目されているのです。
しかし、その一方で「お客様の声」の内容が規制に抵触し、行政処分を受ける例も少なくありません。
本記事では「お客様の声」を広告に使う際に関わる法律やガイドライン、その実務的な注意点について解説します。
目次
お客様の声を広告に使用する際の法的規制とその背景
「お客様の声」を広告に使用する際、企業は必ず法的な規制や業界の自主ガイドラインに従う必要があります。
代表的なものには「景品表示法」や「薬機法」、「特定商取引法」などがあり、これらの法律は消費者保護の観点から広告表現に一定の制限を設けています。
また、不適切な「お客様の声」の使用はステルスマーケティングと誤解され、企業の信頼を大きく損なう可能性もあります。
ここでは、主要な法律ごとに「お客様の声」にどう関係してくるのか、その背景を整理して解説していきます。
景品表示法におけるお客様の声の位置付け
景品表示法では、表示内容が実際の性能や品質よりも著しく優良であると誤認させる場合を「優良誤認表示」として禁止しています。
たとえば、個人の感想であっても「この商品を使ってすぐに効果が出た」などの表現が繰り返されれば、消費者に過度の期待を与えかねません。
「あくまで個人の感想です」という注記があっても、全体の印象として誤認されれば違反にあたる可能性があるのです。
表示が優良誤認とされるパターン
行政の過去の指導事例では、「モニター調査の結果、97%が効果を実感」といった表現が、根拠のない誇大広告として指摘されています。
お客様の声を使った場合でも、あたかも多数の顧客が同様の結果を得たような印象を与える場合は、優良誤認と判断される可能性があります。
過度な期待を持たせる表現の例
「たった3日で肌がつるつるになった」「飲むだけで体重が5kg減った」などの文言は、広告規制においてNGとされる典型例です。
特に時間・効果の即効性を強調するフレーズは、高確率で景表法に抵触する可能性があります。
「個人の感想です」表記の落とし穴
「個人の感想です」という記載があればすべて許されるわけではありません。
その表現が読者に誤認を与える内容であれば、注記があっても景品表示法の規制対象になります。
薬機法・特定商取引法との関係
薬機法は、医薬品・医療機器・化粧品などの広告に対して厳格な規制を定めています。
特に「治った」「改善した」などの効果・効能を謳う表現は、たとえお客様の声であっても許可されていない場合には違法とされる恐れがあります。
また、特定商取引法では、誤認を与える表示や不実告知に該当する広告に対して業務停止命令などが下される可能性もあるため、慎重な取り扱いが求められます。
医療的効能表現が許容されないケース
「腰痛が改善した」「視力が良くなった」といった具体的な医療効果の記述は、認可された医薬品でなければ薬機法違反に該当します。
こうした表現は、本人の体験談であっても広告として表示すれば規制対象になるのです。
「治った」「改善した」などの表現制限
「◯◯を飲んで病気が治った」というお客様の声は、実際に治癒したとしても医薬品的な効能効果を暗示する表現として薬機法の違反に該当します。
このような声を広告に活用する場合は、明確な裏付けがない限り慎重に判断する必要があります。
第三者による裏付けが必要な場合
もし広告に効果を示すお客様の声を掲載したい場合は、臨床試験やエビデンスのある検証データと組み合わせて提示することで信頼性を補う必要があります。
それでも尚、表現の仕方に細心の注意を払わなければ規制に抵触する危険性は避けられません。
お客様の声を広告に使った場合に起こりうるトラブル
お客様の声を広告に使用する際に、法的なルールを守らないことでトラブルに発展するケースがあります。
広告に活用した声が誤認を与える内容であったり、効果を過剰に強調したりした場合、企業は行政処分や社会的な信頼喪失というリスクに直面します。
この章では、実際に発生したトラブル事例を通じて、企業担当者が把握すべき注意点を解説します。
誇大広告と判断されたケース
たとえば、ある健康食品メーカーが「疲れが即座にとれた」「仕事のパフォーマンスが飛躍的に上がった」などのユーザーボイスを前面に出して広告を行いました。
その結果、薬機法に基づいて違反と判断され、業務改善命令が出されたケースがあります。
「個人の声」であっても、それが広告である限りは、企業が責任を持って表示内容を精査する必要があるのです。
行政処分を受けた企業の事例
消費者庁は2021年、複数の健康関連企業に対して、根拠不十分な効果表現を含む「お客様の声」の広告を行ったとして、措置命令を発出しました。
それらは、「たった1週間で血糖値が正常化した」「アレルギーが改善された」などの表現を含んでおり、いずれも裏付けがありませんでした。
医薬品に準じる主張で警告対象に
特に「病気が治る」「症状が消える」といった声をそのまま使うと、医薬品的な効能を謳っていると判断される恐れが強く、警告・改善命令の対象になります。
エビデンス不足が原因のケース
「○○が効いた」などの表現でも、具体的な数値データや検証結果を伴わない場合、信ぴょう性に欠けると判断されます。
自主改善指導と公表の影響
たとえ処分に至らなかった場合でも、行政機関からの指導があれば企業名が公表されることがあり、企業イメージに長期的なダメージを与えかねません。
広告として使える「お客様の声」と使えない「お客様の声」の違い
すべての「お客様の声」が広告として活用できるわけではありません。
法令やガイドラインに照らして適切に整理された表現であることが条件となります。
ここでは、広告として使える声と使えない声の違いを明確にし、具体的な事例とともに整理します。
広告に使える声の条件
広告に活用できる「お客様の声」として適切なのは、以下のような条件を満たすものです:
- 使用経験が事実に基づいている
- 効果・効能の表現が誇張されていない
- 第三者が確認可能な内容である(レビュー・証明など)
たとえば、「スタッフの対応が丁寧だった」「操作が簡単で便利だった」といった感想は、事実に基づきつつ、誤認のリスクが少ないため広告活用に向いています。
事実に基づいた確認可能な内容
「注文後2日で届いた」「マニュアル通りに操作したらすぐ使えた」などの表現は、客観的事実に基づいているため広告でも問題になりにくい表現です。
広告に使えない声の典型例
以下のような声は、広告で使うとトラブルにつながる可能性が高いため、原則として活用すべきではありません:
- 医療的な効果を謳った表現
- 他社製品を否定・比較した内容
- 明らかに誇大または感情的な表現
他社批判を含む内容
「他社の商品は全然ダメだったが、こちらは最高」などの記述は、比較広告や名誉棄損に該当する恐れがあります。
比較優位性を強調した表現
「業界No.1」「一番人気」などの主張は、根拠となるデータがない限り景表法違反とされる可能性があります。
お客様の声を広告に活用する際の実務フロー
「お客様の声」を広告として安全に活用するためには、単なる収集だけでなく、取得から社内審査・掲載に至るまでのフローを明確に定義しておく必要があります。
このセクションでは、実務的なプロセスの構築方法と、法令順守を確保するためのチェックポイントを解説します。
声の取得と同意の取り方
まず最初のステップは、ユーザーからの声を取得する方法と、その内容を広告に使用することへの「明示的同意」を得ることです。
法的トラブルを避けるためには、書面やオンラインフォームによる同意確認が重要です。
書面・オンラインフォームの活用
おすすめは以下の方法です:
- アンケートに「広告掲載に利用する可能性があります」と記載
- 利用同意書への署名またはチェックボックス形式の確認取得
これにより、後々のトラブル防止に大きく貢献できます。
具体的な同意文言例
例:「ご記入いただいた内容は、当社の広告・マーケティング資料に掲載する可能性があります。内容の掲載にご同意いただける場合は、下記にチェックをお願いいたします。」
社内審査とコンプライアンスチェック
声を取得した後は、それが適切な広告表現となっているかを社内で審査・承認する必要があります。
特にコンプライアンス部門・法務部門との連携が求められます。
法務・マーケ部門の連携ポイント
チェックポイントには以下が含まれます:
- 誤認される恐れがある表現の有無
- 医療的表現、比較表現のチェック
- エビデンスまたは事実確認の有無
このように多角的なチェックを入れることで、広告リスクを最小限に抑えることが可能です。
ステマと誤解されないために気をつけるべきこと
お客様の声を活用した広告で特に注意が必要なのが、消費者から「ステルスマーケティング(ステマ)」と誤解されるリスクです。
適切な表示や明示表記がなければ、信頼を損なうだけでなく、行政指導や炎上リスクを招く可能性もあります。
SNS活用時の明示義務と表記例
SNSにおける口コミ形式の広告では、「PR」「広告」「タイアップ」などの明示表示が不可欠です。
企業が金銭や製品提供を行った場合は、必ず明記しなければいけません。
景表法における「明示」の定義
消費者庁のガイドラインでは、「広告であることが明確にわかるように表示する」ことを明示の定義としています。
たとえば、「#広告」「#PR」「企業案件」などが該当し、ハッシュタグや冒頭への記載が推奨されます。
広告であることを明記するラベル案
- #広告 #提供:〇〇株式会社
- #PR #企業案件 #レビュー
ステルスマーケティングの判断基準
金銭や物品提供がありながら、その事実を明かさずに口コミとして掲載する場合、それが企業の依頼であると判明すれば「ステマ」と判断される可能性が極めて高いです。
インフルエンサーによる「声」の活用と規制
インフルエンサーやモニターから提供された「お客様の声」も、広告に該当する場合には同様の規制が適用されます。
そのため、事前にガイドラインを共有し、企業として責任を持って運用する必要があります。
報酬の有無による表現の注意点
無償で製品提供しただけの場合でも、「報酬に該当する」と解釈される場合があるため、明示表記は必須と考えて差し支えありません。
PR表記の義務と推奨方法
投稿冒頭やプロフィール欄に「この投稿には広告が含まれます」と記載するなど、消費者が一目で判断できる表示方法が求められます。
まとめ:お客様の声 広告 規制における実務ポイントを再確認
お客様の声は、企業の信頼性や商品の魅力を伝える強力なツールです。
しかし、その活用においては法的規制や社会的ルールの順守が不可欠です。
景品表示法・薬機法・特定商取引法などの法令に加え、ステルスマーケティングと誤認されないような配慮も求められます。
広告として活用可能な声の見極め、社内の審査フローの整備、同意取得の徹底など、具体的な対策を講じることでトラブルを未然に防げます。
安心かつ効果的な「お客様の声」の広告活用には、法務・マーケ・現場が連携し、定期的な見直しと学習を継続することが大切です。