お客様の声と薬機法|企業が押さえるべきルールと表現リスク

企業がマーケティング施策として「お客様の声」を活用することは、製品やサービスの信頼性を高める有効な手段です。

しかし、医薬品や化粧品、健康食品などの分野では、薬機法(旧薬事法)により、その表現に厳しい規制がかけられています。

たとえ実際の体験談であっても、効能や効果を誤認させるような表現は法律違反とみなされ、企業には行政処分や課徴金などのリスクが生じる可能性があります。

そこで本記事では、「お客様の声と薬機法」に焦点をあて、企業の担当者がどのような点に注意し、どのように適切に情報発信を行えばよいのかを解説します。

お客様の声と薬機法の基本知識

お客様の声を自社のマーケティング資料やウェブサイトで紹介する場合、薬機法に関する基本的な知識を持つことが不可欠です。

薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)は、医薬品や医療機器、化粧品、健康食品などの販売・広告において消費者の誤認を防ぐことを目的としています。

この法律は、企業が直接発する広告だけでなく、第三者の声を用いた場合でも規制の対象となる点に注意が必要です。

つまり「お客様の声」といえども、製品やサービスの効能効果を断定的に表現する場合、薬機法違反とされる可能性があるのです。

本章では、薬機法の基本的なルールと、その中でなぜお客様の声が規制対象となるのかについて、理解を深めていきます。

薬機法の概要と目的

薬機法は、医薬品、医療機器、再生医療等製品、化粧品、健康食品などの製品が消費者に安全に届けられることを目的とした法律です。

特に広告においては、「効能効果の虚偽・誇大広告」や「未承認の効能表現」に厳しい規制を設けています。

たとえば、製品が国に承認されていない効能を謳った場合、それがたとえ事実であっても薬機法違反となります。

また、実際の使用者の声であっても、「効果があった」「治った」などの表現は企業の広告意図とみなされ、規制対象となるのです。

このように、消費者保護を第一とする薬機法は、企業の宣伝表現に対して細かな制限を設けています。

お客様の声が規制対象となる理由

一見すると、お客様の声は「消費者の個人的な感想」にすぎないように思えるかもしれません。

しかし、薬機法においては、これらの声が企業の販促目的で掲載された時点で、「広告」とみなされる可能性があります。

とくに企業の公式サイトやLP、パンフレットなどで使用される場合は、「読者に購買を促す意図がある」と判断されやすくなります。

薬機法では、広告に該当する表現について、科学的根拠がない効能や事実と異なる情報が含まれていないかを厳しくチェックします。

このため、個人の感想であっても「使用して1日で治った」などの表現は、事実であっても「断定的な効能表現」とされ、違反になるリスクがあります。

つまり「広告性」「誘引性」「特定性」の3要素が揃うと、第三者の声でも規制対象になるというのが薬機法の基本的な考え方です。

お客様の声に関する薬機法違反の事例

お客様の声を活用する際、実際に薬機法に抵触してしまった事例から学ぶことは非常に重要です。

どのような表現がNGとされ、企業がどのようなリスクを負ったのかを知ることで、自社のコンテンツ制作にも活かせるでしょう。

本章では、お客様の声における薬機法違反の典型的なケースを紹介します。

事例1:効果効能を断言する表現

もっとも多く見られる違反事例のひとつが、「この商品を使ったら治った」「短期間で効果が出た」など、効能効果を断言するような表現です。

たとえ本当にそのような体験をしたお客様がいたとしても、それをそのまま掲載すれば、薬機法に違反する可能性が高くなります。

このような表現は、消費者に誤解を与える「虚偽または誇大な広告」に該当するため、規制の対象となるのです。

以下に具体的なNG表現とその対処方法を見ていきましょう。

「この薬を飲んだら1週間で完治しました!」のNG性

この表現は非常に典型的なNG例として知られています。

一見すると単なるユーザーの感想ですが、「1週間で完治」という表現は、あたかもその薬に特定の治癒効果があるように読み取れてしまいます。

これにより、製品に対する過度な期待や誤解を招き、薬機法に定める「誇大広告」に該当する可能性が高まります。

そのため、このような表現を企業が公式に掲載することは、たとえ事実であっても推奨されません。

以下で、より詳しく問題点と回避方法を見ていきましょう。

効能効果の断定的表現は薬機法上の禁止行為

薬機法では、製品の効能や効果を断定的に示す表現を禁止しています。

たとえば「治る」「改善される」「完治する」といった語句は、科学的根拠や承認なしでは使用できません。

このような断定は、消費者に誤解を与えると判断され、違反とされることがほとんどです。

消費者の誤認を招く表現とみなされる

薬機法では「誤認の可能性」があるかどうかが基準とされます。

つまり、明らかな嘘でなくても、読み手が「この商品は必ず治る」と信じてしまうような表現はNGです。

そのため、「この薬で完治した」というお客様の声も、文言を調整しなければ違法となる可能性があります。

対策:事実の共有に留める

薬機法に違反しないためには、「効能や効果の断定」を避け、事実の共有にとどめることが基本となります。

お客様の感想を掲載する際には、「改善した」「治った」などの医学的評価を避け、個人の主観として曖昧に表現する工夫が必要です。

たとえば「使用後に体が軽く感じた」や「使ってみて安心感があった」などの表現は、直接的な効果を示していないため、比較的安全です。

ここでは、薬機法に抵触しにくい表現の工夫を具体的に見ていきます。

「使用後、個人的には快適になった」などの曖昧な言い回し

「快適になった」「使っていて心地よかった」などの表現は、体験者の主観であり、効能や治癒を断定するものではありません。

こうした表現は、読み手に特定の医療効果を連想させにくいため、薬機法違反になるリスクが低くなります。

治癒や改善という表現を避ける

「改善された」「治った」などの言葉は、いかに感想であっても効果を保証するようなニュアンスが含まれるため危険です。

その代わり、「変化を感じた」や「前より過ごしやすくなった」などの中立的な表現に言い換えることが推奨されます。

事例2:化粧品のお客様の声での注意点

化粧品は医薬品とは異なり、人体に対する「作用」を目的とすることはできません。

そのため、化粧品に関するお客様の声を紹介する際にも、薬機法上の制限が存在します。

とくに「シミが消えた」「肌が若返った」などの表現は、医療的な効果を連想させるため違反になるリスクがあります。

ここでは、化粧品分野において実際に違反とされやすいお客様の声と、その理由について掘り下げます。

「シミが消えた」「肌が若返った」のリスク

このような表現は、「医薬品的効能」を想起させることから、薬機法で禁止されています。

特に「シミ」「しわ」「たるみ」などは、肌の構造や状態に関わる症状とみなされやすく、化粧品の範疇を超えた効果表現になります。

以下のようなポイントで違反リスクが高まるため、企業は注意が必要です。

化粧品は効果効能の訴求ができない

薬機法では、化粧品が訴求できる効能・効果には「清潔にする」「肌を整える」「芳香を与える」など30項目に限定されています。

「しわを消す」「シミを除去する」などはその範囲を超えており、医薬品に該当するためNGです。

医学的効果と誤解される表現はNG

「肌年齢が若返った」「真皮の再生を実感した」などは、肌の構造や生理機能への作用を想起させるため、薬機法違反となる恐れがあります。

化粧品では、見た目や使用感の表現に留める必要があります。

薬機法を遵守するためのチェックポイント

お客様の声を活用する際には、薬機法に抵触しないよう、事前のチェックと社内体制の整備が重要です。

ここでは、具体的にどのような点を確認し、どのような体制を作るべきかを解説します。

薬機法違反は企業にとって信頼失墜や処罰のリスクをもたらすため、以下のポイントを徹底しましょう。

表現内容の事前確認

すべての「お客様の声」コンテンツは、公開前に薬機法に基づいたレビューを行う必要があります。

とくに治療効果を暗示する文言が含まれていないかの確認は重要です。

効能効果に関する文言の排除

「治った」「治癒」「改善された」などの文言は、すべて効能効果を示唆するものとして排除対象です。

たとえ使用者の感想であっても、医療的効果と受け取れる表現は慎重に排除しなければなりません。

治療・改善・治癒などの用語確認

これらの単語は典型的なNGワードとされており、掲載前に一つひとつ精査する必要があります。

第三者視点でも誤認リスクがないか

社内チェックでは、社内の誰かが読んで「効果があると誤解されないか」を確認する観点が必要です。

社内確認フローの構築

薬機法に対応した社内体制を整えることは、法令遵守とスムーズなマーケティング活動の両立に欠かせません。

ここでは、企業内で整備すべき確認フローについて紹介します。

法務・薬事との連携体制を整備

薬機法の判断は専門的であり、現場担当者だけでは正確な判断が難しい場合があります。

そのため、法務部門や薬事担当との連携体制を構築し、事前確認の段階で彼らのレビューを受けられる仕組みを持つことが重要です。

チェックリストによる表現レビュー

薬機法違反を未然に防ぐため、定型のチェックリストを作成し、表現のチェックを効率化しましょう。

例えば「治癒表現」「改善語」「医学的語彙」などの使用がないか、項目化して確認するのが有効です。

薬事担当の最終確認の必須化

最終的な広告やLPの公開前には、薬事担当の最終レビューを必須とする運用ルールを設けることで、社内全体の安心感も高まります。

特にグレーな表現や迷ったケースでは、専門家の判断がリスク回避に大きく貢献します。

薬機法を踏まえたお客様の声の活用術

厳しい制限があるとはいえ、薬機法を正しく理解し遵守すれば、お客様の声は引き続き有効なマーケティング手法として活用可能です。

ここでは、薬機法のルールを守りながら、どのようにしてユーザーの体験を訴求できるかを具体的に紹介します。

感想レベルの内容に留める

「嬉しかった」「安心した」「前より良くなった気がする」など、ユーザーが感じた感覚に留めた表現は、薬機法違反に該当しにくいとされています。

感想レベルにとどめることで、読み手に安心感を与えつつも違法性を回避できます。

ストーリー形式で背景や感情を伝える

具体的な「効果」ではなく、「なぜ使おうと思ったのか」「どういう気持ちだったか」など背景や感情を中心に構成することで、薬機法上の問題を避けられます。

顧客の「物語」に焦点を当てることで、訴求力も高められます。

定量評価や数値評価の工夫

「使用前より◯%満足度が上がった」「アンケート結果で85%が好印象と回答」など、定量的な評価やデータに基づいた内容は、主観表現と分けて示すことで違反リスクを抑えることが可能です。

まとめ:お客様の声を活かすなら薬機法の理解は必須

お客様の声は、企業のマーケティングや信頼性向上に大きな力を持っています。

しかし医薬品・医療機器・化粧品・健康食品といった特定分野においては、薬機法という法律の存在を無視しては通れません。

たとえ真実の体験談であっても、効能効果を断定した表現は違法となるリスクがあるため、表現内容の精査と社内体制の整備が必要不可欠です。

薬機法の知識をもとに、感想レベルの表現やストーリー形式の活用、チェック体制の構築を進めることで、安全にかつ効果的にお客様の声をマーケティングに取り入れることが可能です。

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