企業のマーケティングや広告活動において、「お客様の声」は信頼性の高い情報として活用されています。
しかし、その表現に「これは個人の感想です」と添えることに法的・実務的な意味があるのか疑問に思う担当者も少なくありません。
本記事では、「個人の感想」として表示することが広告上のリスクを軽減するのか、また、打ち消し表現としての効果や限界について、法律や実務の観点から詳しく解説します。
目次
お客様の声に「個人の感想」と明記する背景とは
近年、多くの企業が「お客様の声」を広告やPR資料に取り入れる際に、「これは個人の感想です」と表記するケースが増えています。
この背景には、消費者への誤認を避け、法的リスクを軽減するという目的があります。
「お客様の声」は、利用者のリアルな感想として価値がある一方で、広告の一部とみなされる可能性があるため、その線引きが重要です。
そのため、企業は自社の主張ではないことを強調するために「個人の感想」と明記するようになってきました。
ユーザーの証言と企業の主張は別物
「お客様の声」は基本的に使用者自身の体験談や印象に基づくものであり、企業の公式見解とは異なります。
しかし、企業のWebサイトや広告でこれを掲載する際には、消費者が「これは企業の主張ではない」と明確に理解できる工夫が求められます。
そのため、文章のトーンや掲載位置、表示の仕方まで慎重に設計される必要があります。
この点で、「個人の感想です」という注記は、ユーザーと企業の責任を区別するための重要なツールといえるでしょう。
お客様の声に「個人の感想」と記載する法的根拠と限界
「これは個人の感想です」と明記することで、企業は法的責任を回避できると誤解されがちです。
しかし、実際には消費者庁や厚生労働省などのガイドラインに基づき、広告全体の印象が誤認を招くものであれば、その表現は不適切とされる可能性があります。
したがって、「個人の感想」と表記したからといって、すべての責任が免除されるわけではありません。
この項では、景品表示法および薬機法の観点から、その法的根拠と限界を掘り下げます。
景品表示法における位置づけ
景品表示法は、商品やサービスの取引において、消費者が誤認しないよう表示の適正性を求める法律です。
この法律では、「優良誤認」や「有利誤認」といった表示に対して厳しい制限が課されます。
「個人の感想」として記載していても、表示全体の印象が事実と異なる優良性を暗示していれば、違反とされる可能性があります。
次に、過去の行政指導をもとに具体的な判断基準を見ていきましょう。
過去の行政指導・処分事例
消費者庁が公表した事例の中には、「これは個人の感想です」と明記されていても表示全体で誤認を与えたとして指導・処分されたものがあります。
以下にその代表的なケースを紹介します。
ケース1:健康食品における感想の誇張
「飲んだだけで5kg痩せました」といった感想が、「個人の感想です」と明記されていても、商品自体に効果があるような印象を与えると判断されました。
ケース2:ビフォーアフター事例の誤認
「写真は個人の感想をもとにしたイメージ」と記載されていても、実際の結果保証と受け取られる恐れがあるとして指導を受けました。
薬機法における留意点
薬機法(旧・薬事法)は、医薬品、医療機器、化粧品、健康食品などの広告における効能・効果の表示を厳しく制限しています。
この法律では、たとえ「個人の感想」であっても、一定の効能を保証するような内容が含まれている場合には違反と判断されることがあります。
特に、医薬品的な効果を暗示するような文言は、薬機法により厳格に取り締まられます。
そのため、体験談の活用には細心の注意が必要です。
厚労省の広告審査指針の概要
厚生労働省が提示する広告審査のガイドラインでは、たとえ「個人の感想」であっても、それが消費者に「効果がある」と誤認させる内容であれば不適切とされます。
さらに、医薬品や化粧品に関連する表現については、効能や効果を匂わせるだけでも規制の対象になり得ます。
事例:発毛効果を謳った感想による違反
「この育毛剤を使って2週間で髪が増えた気がします」といった感想は、明らかに効果を保証している印象を与えるため、薬機法違反と判断される可能性が高いです。
このような事例では、「あくまで個人の感想です」と記載していても、打ち消し表現としては機能しません。
お客様の声に「個人の感想」を加えることのリスクとは
「個人の感想」と注記することで法的リスクを軽減しようとする試みは有効ですが、それが全てのリスクを排除するわけではありません。
むしろ誤った使い方をすれば、企業のブランドイメージの低下や信頼性の失墜、さらには行政からの指導や処分の対象となる危険もあります。
本章では「個人の感想」が持つ打ち消し効果の限界や、企業として求められる姿勢について解説します。
打ち消し表現としての「限界」
「個人の感想です」と書かれていても、その表現が目立たない場所にある、あるいは文字サイズが小さい場合には、打ち消し効果は弱まります。
また、全体の表示が「効果がある」と強く印象付けている場合には、注記の有無に関係なく不当表示とされるリスクがあります。
企業責任として求められる表示配慮
企業には、消費者が誤解しないように表示全体の設計を行う責任があります。
そのため、事前の法務チェックや、消費者モニターによる反応の検証などが重要です。
お客様の声での「個人の感想です」表記の注意点チェックリスト
実際に「個人の感想です」と記載する際に確認すべきポイントを以下にまとめます。
このチェックリストを活用することで、より安全にお客様の声を活用できます。
制作前に確認すべき項目
- 「個人の感想」の記載は目立つ位置にあるか?
- 効果を断定するような表現になっていないか?
- 景品表示法や薬機法の対象になる商品でないか?
表示後にモニタリングすべき視点
- 消費者からの誤認クレームは発生していないか?
- 行政からの指摘や注意喚起を受けていないか?
- 定期的な表現見直しを行っているか?
まとめ:お客様の声に個人の感想を使うなら法令遵守と表現設計が不可欠
「個人の感想」と表記すれば全てが許されるわけではありません。
広告規制の観点から見れば、表示全体の印象が誤認を招くかどうかが重要な判断基準です。
企業が「お客様の声」を活用する場合には、法令に沿った設計と、誤認を避ける表現の工夫が求められます。
そのためにも、表示ルールの理解と継続的なチェック体制を構築することが不可欠です。